あらすじ
思い描いていた未来をあきらめて赴任した高校で、驚いたことに“私”は文芸部の顧問になった。
「垣内君って、どうして文芸部なの?」「文学が好きだからです」「まさか」!
清く正しくまっすぐな青春を送ってきた“私”には、思いがけないことばかり。
不思議な出会いから、傷ついた心を回復していく再生の物語。
ほかに、単行本未収録の短篇「雲行き」を収録。
「これって青春?」
「どうやらそのようですね」
人と出会うことのすばらしさを独特のタッチで描く感動作。
一見、希薄ではあるものの根っこの部分で繋がっていて、
べたべたしないが素っ気ないわけでなく、情には流されないが情の厚さを知っている。
そんなふたりの関係。いいなあ。
[解説より 山本幸久]


感想
部活動に本気だったからこそ、妥協できなかったあの頃の自分。
人を傷つけたり、追い詰めるなんてこと夢にも思わなかったあの頃の自分。
無我夢中で走っていたからこそ気づけなかった過去がある。
同級生を傷つけ、自殺に追い込んだのは・・・、きっと「自分のせいだ」と感じる。
「まさか」、「だけど」、「本当に」、ありえる話。
知らず知らず人を傷つけ、傷ついた人を見て、また傷つく。
そして大きなトラウマになって呪いのようにずっと続く。
これが罪だと思う。
だけど、そんな過去や罪を、みんなうまく誤魔化し隠して生きている。
それが良いことか悪いことか分からないけど、悲しいことってのは分かる。
生徒の垣内君が負った過去の傷も、先生が過去に負った傷も、話さない。
なのに、ふたりがどこかで通じ合っているような、そんな優しい雰囲気を感じる。
お互いに『なにかあった』のを感じつつ、聞かない。
だから希薄な関係のように見えるけど、そうじゃない。
そんな優しさが二人にはあって、ただの学校での日常が過ぎ去っていく感じが良い。
穏やかに流れる温かな風のような。陽だまりのような日々。
そして、図書館の神様だけに、『本』が重要だ。
ふたりを繋ぎだすきっかりになるのも、本。
この世にあるたくさんの本。
それを読むだけであらゆる知識を得たり、歴史を知れたり、行ったことないところへも行ける。
垣内君の熱弁は、やっぱり子供らしさがあって良い。
私も先生と同じように本を読まない人間だった。
だけど、一度面白さを知るとハマる。
そして、本は読んでみないと分からないってよく思う。
面白いか、面白くないか、読んでみないと分からない。
登場人物で一番好きだったのが、弟!
姉の事をいつも想い、純粋な弟。
幼少時代の「なんでこんなことになっちゃうの」と涙ながらに訴える健気な弟の姿に胸がギュっとなった。
「なんにも悪いことしてない」のに、悪いことってやってくる。
『致し方ない事』だけど、やっぱり理解できない。
子供の『なんで』って、本当に純粋な『なんで』なんだよなあ。
弟可愛すぎて、本当に救われる。
アレルギーめっちゃ持ってる私には、
この作中のアレルギーに対する表現とか、言い方に疑問を持つところも色々あった。
『心』と『体』って、やっぱり本当に密接に関係してるし、ふたつでひとつなのは本当。
だから、どっちかのバランスが傾いたら、どっちかのバランスも傾くこともある。
『心』が白、『体』が黒でバランスがとれていた時に、
『心』が黒になったら『体』は白になろうとするのかな??
そんなことを考えながら、アレルギーに関しては答えは出なかったなあ。
むしろアレルギーに苦しむ私は、その答え、すごく知りたいけど…
先生と全く同じ人なんていないから、私なりの答えを出そうと思う。